ドマンタス・サボニス（Domantas Sabonis）は、NBAのビッグマンとして確固たる地位を確立している選手の一人です。その成長の背景には、偉大な父親の影響を受けながらも、自らのスタイルと努力で道を切り開いてきました。今回はその背景に迫りました。
生いたちと家庭環境
ドマンタス・サボニスは、1996年5月3日、アメリカのオレゴン州ポートランドで生まれました。 父は、ソビエト連邦時代からリトアニア代表として活躍し、NBAでも高い評価を得たレジェンド、アルヴィダス・サボニス（Arvydas Sabonis）です。その身長220cmを駆使し、ポストプレーからアウトサイドシュートまで幅広くこなす、リトアニアのバスケットボール界に名を残す伝説的な選手で、NBAのポートランド・トレイルブレイザーズでも活躍していました。 アルヴィダスはNBA入り前からヨーロッパのバスケットボールシーンで名声を博しており、FIBAの殿堂入りも果たしている選手です。ドマンタスはアメリカとリトアニアの両方を身近に感じながら成長しました。
父アルヴィダスの偉大な足跡は、ドマンタスにとって大きな刺激であり、またプレッシャーでもありました。親子はバスケットボールに対する情熱を共有しながら、ドマンタスが自分自身の道を見つけることを支援していました。
リトアニアへの帰還とバスケキャリアのスタート
ドマンタスが9歳のとき、家族はリトアニアへ戻り、彼の本格的なバスケットボールのキャリアが始まりました。 リトアニアはバスケットボールが国民的スポーツであり、優れた育成環境が整っています。これを受け、彼もリトアニアの強豪クラブであるザルギリス・カウナスのユースチームに所属することになります。中学時代には、ヨーロッパのユースリーグで頭角を現し、その技術とバスケットIQは「父親譲りだ」と多くの専門家に評価されています。
その後、ドマンタスはスペインの名門チーム、マラガのユースチームに加わって、プロデビュー前からヨーロッパでの経験を積んでいきます。 当時のコーチは「ドマンタスは父親のような巨体は持たないが、その分スピードとスキルで勝負する選手だ」と語り、早くから彼のポテンシャルに注目していました。
この時期、彼はフィジカル面だけでなく、テクニカルなスキルも磨きました。 父親のアドバイスも受けながら、パスの精度やコートビジョンを養い、身長に頼るだけでなく、技術と知性でゲームを支配するプレースタイルを身に着けていきます。ドマンタスはリトアニアのユース代表チームでも活躍し、リトアニア国内の大会では優れたパフォーマンスを見せました。これにより、彼の名前はリトアニア国内だけでなく、国際的にも知られていくようになります。
ゴンザガ大学時代
2014年、ドマンタスはアメリカへ戻り、ワシントン州にあるゴンザガ大学に進学します。ゴンザガはNCAAのバスケットボール強豪校で、彼のさらなる成長に理想的な環境でした。ゴンザガでの彼の1年目は、平均9.7得点、7.1リバウンドという安定した成績を残し、チームに貢献しました。彼はすぐにチームの中心選手として信頼され、更なる成長も予感させる存在として認識されていました。
大学2年目の2015-2016シーズン、彼のプレーはさらに際立ちます。平均17.6得点、11.8リバウンドを記録し、フィールドゴール成功率は61%を超えるなど、高い効率性を示しました。今シーズン、ゴンザガはNCAAトーナメントでエリート8進出を果たし、ドマンタスもインサイドでの支配力とリバウンド力に大きく貢献しました。
ゴンザガのヘッドコーチ、マーク・フューは彼について「彼のワークエシックは驚異的だ。練習でも全力で取り組む姿勢はチームにとって模範となった」と語っています。また、チームメイトからも「彼のパスは予測できない。 大きな身体を持ちながら、ガードのような視点を持っているんだ」とそのプレースタイルが高く評価されていました。
NBAキャリアの始まり
2016年、ドマンタスはNBA指名にエントリーし、1巡目11位でオーランド・マジックから指名され、その後オクラホマシティ・サンダー（OKC）にトレードされます。 ルーキーシーズンでは、彼はラッセル・ウェストブルックのチームメイトとして、主にパワーフォワードとしてプレーしました。
OKCでの1年目は、期待されたほどの大きな活躍はできなかったもの、スターティングラインナップとして60試合以上に出場し、試合経験を積むことができました。この時期、ラッセル・ウェストブルックがシーズン平均トリプルダブルを達成する中で、ドマンタスは彼を支えるロールプレイヤーとしての役割を担い、リバウンドやスクリーンを提供しました。 ウェストブルックは彼について、「若くても真面目で、学ぶ姿勢が素晴らしい選手」とドマンタスを絶賛していました。
インディアナ・ペイサーズでの飛躍
2017年、ドマンタスはポール・ジョージとのトレードでインディアナ・ペイサーズに移籍します。この移籍が彼のキャリアのターニングポイントとなりました。ペイサーズでの環境は、彼にとってより自由で、多彩なプレースタイルをヘッドコーチのネイト・マクミランの下で披露することとなったのです。サボニスはプレーメイキング能力とパスセンスを向上させ、ボールムーブメントを重視したオフェンスの中心選手として成長しました。
2019-20シーズンには初のオールスターに選ばれ、ペイサーズの核としての地位を確立。平均18.5得点、12.4リバウンド、5アシストというスタッツを残し、リーグを代表するビッグマンの一人としての評価を受けるようになりました。
ペイサーズ時代の同僚、ビクター・オラディポは「ドマンタスはコート上でもコート外でも、チームを引っ張るリーダーだった。彼のプレーは自分たちのスタイルに完璧にフィットしていた」と彼の影響力の高さを語っています。彼のオールラウンドな能力がいよいよ本領を発揮し、当時ペイサーズの指揮官だったネイト・マクミランは彼を「現代のビッグマンの理想像」と評価し、オフェンスの起点としての役割を担わせていました。
ドマンタスのパフォーマンスについて、ペイサーのチームメイト、マイルズ・ターナーも「彼と一緒にプレーするのは楽しい。パスをまわしてくれるし、ディフェンスでも頼りになる存在だ」とその影響力を称賛しています。
サクラメント・キングスでの挑戦
2021年、ドマンタス・サボニスはインディアナ・ペイサーズからサクラメント・キングスにトレードされ、彼のNBAキャリアの新たな章が始まりました。サボニスにとってキングスへの移籍は新しい挑戦を意味し、特にチームが長年プレーオフから遠ざかっていたので、リーダーシップを発揮しチームを再構築する役割が期待されたのです。サクラメントでの彼のオールラウンドなプレースタイルは、チームのスタイルと相性が良く、彼の多才さがさらに目立つこととなるのです。
サボニスのプレーは、得点、リバウンド、アシストのすべてで貢献できる能力を持ち合わせており、特にパススキルに関してはセンターやパワーフォワードとして異例のレベルです。キングスでの彼のパフォーマンスは、インサイドでのプレ一時、プレーメーカーとしても機能するという、現代のビッグマンとしての理想的な姿を示しています。これによりアグレッシブなスタイルのガードコンビ、ディアロン・フォックスやマリク・モンク、シューターのケビン・ハーターとも相性の良さが光りました。
キングス移籍後、サボニスはすぐにチームの中心選手として期待されました。 特に、彼の高いバスケットボールIQとパス能力は、彼のオフェンスをスムーズに進むために、彼を経由したプレーの効率性は著しく2022-2023シーズン、彼は平均19.1得点、12.3リバウンド、7.3アシストというスタッツを記録し、NBA全体でもトップクラスのオールラウンドなビッグマンとして評価されました。
現代的なオールラウンダー
ドマンタスの特筆すべき特徴は、ビッグマンでありながら高い能力を持つ点です。 彼はインサイドでの得点はもちろん、ポストプレーから外の選手へのキックアウトや、ピック＆ロールからの正確なパスを駆使し、チームメイトを活かすプレーを得意としています。 サクラメント・キングスでの彼の存在は、オフェンスの核として機能し、彼のハンドオフやハイポストからのパスがチームの攻撃のリズムを行っています。
彼は、父親譲りの高いバスケットIQとパスセンスを持つ現代型ビッグマンです。 ただし、そのプレーは単なる父親のコピーではありません。 ドマンタスはよりアグレッシブなリバウンドやスクリーニングを得意とし、オフェンスでも柔軟なポストプレーからミッドレンジシュートまで堅実な技術を誇ります。
彼自身は「父から学んだことは多いが、僕は僕自身のスタイルを作りたい」と考えており、父の影を超えて自ら道を切り開こうとする姿勢が心がけています。
この点について、キングスのエースであるディアロン・フォックスも「ドマンタスと一緒にプレーするのは本当に楽しい。彼がコートにいると、ガードは自信を持ってシュートを打つことができる。彼のパスは精密機械の様で、チームメンバーが常に彼からのパスを受ける準備をしているんだ」とコメントしています。ドマンタスがポストでボールを持つことでフォックスの得点機会が増加し、チームの攻撃力が向上しています。
コート外でのリーダーシップとチームメイトからの知見
サボニスの貢献はコート内に限りません。 彼はサクラメントに移籍してから、コート外でもリーダーシップを発揮し、若手選手たちを積極的にサポートしています。 サボニスの指南について、若手フォワードのキーガン・マレーは「ドマンタスはいつも自分の経験をシェアしてくれるし、どうすれば試合で成功できるか教えてくれる。彼と一緒にプレーすることで、自分もより成長できている」と感謝の意を示しています。
サボニス自身もリーダーとしての役割を担っており、「キングスは長い間プレーオフから遠ざかっていたけど、僕がチームにできるのは、勝つためのメンタリティを根付かせることだと思っている」と語っています。彼はチームが一丸となってプレーオフ進出を目指すために、練習や試合でのハードワークを忘れません。
サボニスのリーダーシップについて、ヘッドコーチのマイク・ブラウンは次のように語っています。 「ドマンタスがコートにいることで僕らのオフェンスはよりスムーズに、そしてクリエイティブになった。」また、ブラウンはサボニスの献身的な姿勢にも敬意を表し、「彼は常に全力で取り組み、どんなときでもチームのためにプレーする。その姿勢がチーム全体に良い影響を与えている」と評価しています。更には「彼はただのスコアラーではなく、チーム全体を動かす存在だ。彼のパススキルとコートビジョンがあることで、チームのオフェンスが次のレベルに達した」と高く評価。また、キングスの若手選手たちにとっても、彼のリーダーシップは貴重な経験となっています。
また、ブラウンはサボニスのディフェンス面での貢献も忘れません。 「彼のディフェンスは目に見えるスタッツには出にくいが、ポジショニングやリバウンドでのハッスル、スクリーンの警戒など、多くの細かい部分でチームを助けている」と今度は、彼の総合的な貢献を認めています。
サボニス自身も、キングスでの新しい挑戦に大きなやりがいを感じていると語ります。 「勝てるチームを作りたい」と考えており、キングスを再びプレーオフの舞台に戻すことを目標としています。
また、彼はサクラメントでの生活についても前向きな姿勢を示しており、「サクラメントのファンは情熱的で、毎回チームを応援しに来てくれます。その声援を受けると、もっと頑張りたいという気持ちになりますよ」と地元ファンへの感謝を口にしています。
家族と故郷への思い
ドマンタス・サボニスはNBAでのキャリアを送りながら、常にリトアニアへの深い思いを持ち続けています。 家族とのつながりは、彼にとってとても大切なものであり、特に父アルヴィダスとの関係は特別です。アルヴィダス・サボニスはドマンタスの最大の支援者であり、彼のキャリアを遠くから見守りながらも、必要な時にはアドバイスをしています。ドマンタス自身も「父はいつも冷静な視点を持っていて、僕にとって適切なアドバイスをくれる存在なんだ」と語り、父の存在が自分のキャリアにおいて大きな支えであると認めています。
また、家族の存在はリトアニアの代表として戦う時にも重要な意味を持っています。 彼はリトアニア代表チームとして国際大会に出場することに強い誇りを感じており、その姿勢はリトアニアのファンや若い選手たちに多大な影響を与えています。彼は、2022年のFIBAヨーロッパ選手権においてもリトアニア代表としてプレーし、チームの中心として重要な役割を果たしました。
「リトアニア代表としてプレーすることは、NBAでプレーすることとはまた違った特別な感情がある。自分のルーツと繋がっていることを感じられるし、家族や国を守ってプレーすることの僕にとって大きな意味があるんだ」と述べ、自分を形成した文化や家族が息づく場所であり、彼のバスケットボール人生の原点である祖国に大いなる愛を注いでいます。
また、ドマンタスは家族と共に過ごす時間を大切にしており、特にオフシーズンにはリトアニアを訪れ、家族や友人たちと過ごすことが恒例となっています。妻のシャノンも彼を支え、NBAの過密なスケジュールの姿勢の中でも家庭を大切にしており、ドマンタスの心の安定に大きな影響を与えています。 シャノンは「ドマンタスは家族との時間を何よりも大切にしてくれるの。 彼がリトアニアにいる時は、本当にリラックスして過ごしているのが嬉しい」とコメントしています。
結び—父を超えるために
ドマンタス・サボニスの人生は、リトアニアとアメリカという二つの異なる文化の中で成長し、自ら道を切り開いた一人のバスケットボール選手の物語です。偉大な父の影響を受けつつも、自分自身のプレースタイルを確立し、NBAで輝くビッグマンとして成長してきた彼。その過程には多くの挑戦と努力がありましたが、彼の情熱とハードワークは今も続いています。
「僕のバスケの人生は、父を超えるためではない。僕の物語を紡ぎ、リトアニアの子どもたちに夢を見せたいんだ」。彼が未来を見つめながら自分自身を語るこの言葉が、彼の歩む道のガイドラインとなっています。彼の今後のキャリアにも期待が集まり、リトアニアの誇りとして、そしてNBAのスターとして、その歩みはさらに続いていくでしょう。
