試合時間残り15秒の時、19歳の大学バスケットボール選手が、スポーツマーケティングを永遠に変えることになる16フィートの決勝シュートを放った。
その日、試合を観戦していたのはマーケティング担当役員で草の根運動家でもあるソニー・ヴァッカロだった。彼は試合に非常に感銘を受け、2年後、この比較的実績のない選手を応援するためにスポーツメーカーのナイキでの職を賭けた。
その選手とはマイケル・ジョーダンである。
しかし、私たちが今知っているジョーダンとは違う。ヴァッカロが、1982年にノースカロライナ・タールヒールズがNCAAチャンピオンシップで優勝したシュートをジョーダンが決めたのを目撃した時点では、ジョーダンはまだ1年生だった。
2年後、ヴァッカロが上司に年間のバスケットボールのスポンサー契約予算のすべてを自分に使うよう促したとき、ジョーダンはまだ21歳で、NBAで試合に出場したこともなかった。そして誰も彼のシューズについて語っていなかった。
ヴァッカロは、ニューオーリンズのルイジアナ・スーパードームで彼がシュートするのを見た瞬間に、この若者の潜在能力に対する確信が強まったと語る。
「あのショットはマイケル・ジョーダンのその後によって世界を変えた」と85歳のジョーダン氏はBBCスポーツに語った。
「彼がシュートを打った時、彼は世界中のどんなシュートでも打つだろうと確信した。」
しかし、最初にシュートを打たなければならなかったのはヴァッカロだった。
彼は回想録「Legends and Soles」の中で、コンバースなどの競合他社がアービン・「マジック」・ジョンソンなど有名選手の宣伝をしている中、上司たちに新進気鋭のスターにチャンスを与えるよう説得しなければならなかった経緯を述べている。
その頃までに、ヴァッカロは若い選手に関する幅広い知識を持つバスケットボールの専門家としての地位を確立していた。1964年、24歳だった彼は、初の全国高校オールスターバスケットボールゲームである「ダッパー・ダン・ラウンドボール・クラシック」を設立している。
このトーナメントは2007年までさまざまな形で開催され、モーゼス・マローン、レブロン・ジェームズ、ケビン・ガーネット、ケビン・ラブ、コービー・ブライアント、パトリック・ユーイング、シャキール・オニールなど将来のNBAスターの輩出にも成功している。
彼はまた、1984年にABCDバスケットボールサマーキャンプを設立した。これは国内トップクラスの高校選手を集めた招待大会である。
しかしながら、ヴァッカロはBBCスポーツに対し、ナイキの元社長フィル・ナイト氏は「最後の瞬間まで」ジョーダンの提案(シューズの売り上げのインセンティブをジョーダン側に支払う)に満足していなかったと語った。
彼らの賭けは会社の運命を一変させ、バスケットボールに対する世界の見方を変え、世界中のスニーカー文化に消えない足跡を残した。この物語は2023年の映画「エア」で有名になり、マット・デイモンがヴァッカロを演じた。
著書では、ジョーダンとの契約の詳細に加え、ブライアント、トレイシー・マグレディ、そして2003年に惜しくもスポンサー契約を逃したジェームズなど、将来のスター選手たちの潜在能力をいかにして見抜くことができたかについても述べている。
「ジョーダンがなければナイキもない」
1984年にナイキがジョーダンに提示したオファーには、5年間で年俸25万ドルの保証に加え、ジョーダン自身の商品ラインへの出資が含まれていた。これにより、その年のNBAドラフトで3位指名された21歳のジョーダンは、世界で最も裕福なアスリートの一人となった。
その契約に署名した後、ジョーダンは間違いなくNBA史上最高の選手となり、6回の優勝、6回のファイナルMVP、5回のレギュラーシーズンMVP、そして記録的な10回の得点王を獲得した。
ナイキとの提携により、同社は主にランニングシューズを扱っていた会社から、時価総額300億ドル弱の世界的大企業に躍進してNBAを独占している。
「私の個人的な意見としては、マイケル・ジョーダンがいなかったら、ナイキのシューズ会社について話すことすらなかっただろう」とヴァッカロは語った。
「あれは、バスケットボール選手とスポンサー契約に対するアメリカの見方を変えた唯一の契約だ。彼は人を惹きつける魅力があった。」
「他の人たちには企業とスポンサー契約を結んでいて、靴を掲げて『これを履いて、私はこれを履きます』と言う人がいました。マイケルは靴を掲げる必要がなかったのです。彼は写真を撮ってから靴を履いたのです。」
ピーター・ムーアがデザインしたエアジョーダンシューズは1985年に初めて販売された。1986年までに累計1億ドルのエアジョーダンのシューズと製品が100万足相当売れた。
ジョーダン選手が着用したチャンピオンシップ・トレーナーは昨年のオークションで800万ドルで落札もされている。
「コービーは私が出会った中で最も自信に満ちた人だった」
1993年、ヴァッカロはアディダス・アメリカに入社。その後10年間、同氏はかつての雇用主と、国内で最も注目を浴びていた新進気鋭のNBAスター選手の契約獲得をめぐって争った。
ヴァッカロがドイツのスポーツウェア会社に在籍中に成し遂げた偉業の一つは、1996年に高校を卒業してすぐにNBA入りする1か月前に、当時18歳のコービー・ブライアントと5年500万ドルの契約を結んだことだった。
マーケターが、将来NBAで5回優勝する選手と初めて出会ったのは、1994年にヴァッカロのABCDキャンプに招待されたときだった。
「コービーが私の『才能ある選手』リストのトップに躍り出るまでに、たった1週間しかかからなかった」と彼は書いている。「トップ160人のアメリカ人選手や、中国、フランス、オーストラリア、カナダ、ロシアなどの国の有望選手たちと競い合ったが、コービーは誰にもひるまなかった」
ヴァッカロに深い印象を残したのは、週末にブライアントがヴァッカロに近づき、まだ16歳であるにもかかわらずMVP賞を受賞できなかったことを謝罪したという事実だった。
「この子には、やる気、野心、そして自分への信念といった隠れた何かがあるのがわかっていた」と彼はBBCスポーツに語った。「彼は、私が今まで出会った中で最も自信に満ち、外向的な人物だった」
ブライアントは翌年、ヴァッカロのサマーキャンプに戻り、MVP賞を受賞した。
マグレディに賭ける
1997年、ヴァッカロは、高校からNBAドラフトにトロント・ラプターズから全体9位で指名される予定だったマグレディと契約した。
後にNBAオールスターに7回選出されることになるマグレディは、1996年のABCDキャンプでスポーツマーケティング担当者に強い印象を与えた。しかし、学校のコーチが彼をチームから追い出し、ヴァッカロにこの若者を扱わないよう助言したため、彼はほとんどチームに入れられなかった。
「トレイシーを招待したのは、反発があったからだ」とヴァッカロ氏は言う。「キャンプの5日間で世界が変わった。彼はキャンプでナンバーワンの選手に選ばれた。誰も彼の名前を知らなかった！」
ヴァッカロの人生の物語は、こうした偶然の瞬間の数々によって左右されるようだ。
「もしピッツバーグの人々が1964年に私とダッパー・ダンにノーと言ったらどうなっていただろう？」と彼は言った。「一度ノーと言われたら人生は終わりだ。あなたはインタビューする相手を他に探すだろう。」
引用元：BBC sport
